エデンの北から

京都洛北便り 古典文学で日々を楽しむ

梨木香歩「家守綺譚」 ~疏水のほとりの春秋 その世界に浸っていたい

今週のお題は「読書の秋」「読書してますか」

 

今回の記事は本を紹介、と思っていたのでお題にのって書いてみる。

好きな本はありすぎるので、今回は

「その世界にずうっと浸っていたい本」と自分でサブのお題を決めて

梨木香歩「家守綺譚」紹介。

(以下、作家名は全て敬称略)

 

読書、してます!!。

本は大好きだ。

かなりの雑食系とおもう。

本を読んでいろんな世界に浸るのが、ただただ、楽しい。それは子供の頃から今に至るまで続いている。

最近こんなことを考える。(暇と、年のせいだろう 笑)

読んでいてワクワク、面白い本でも、ずうっとその世界に住むとか、登場人物の誰かにならなければならない、とすると…

期間限定なら、1時間なら、1日なら、とか、自分には無理、とか…そこから帰れないんだったら嫌だ、と思う世界があるな、と。当たり前か。

 

ブログで源氏物語のことを時々書いているが、源氏物語の世界はなかなか厳しい世界だ。私は、紫の上にも六条御息所にも夕顔にも明石の君にも宇治の大君にも浮舟にもなりたくない。というか、私には勤まりそうもない。

光源氏くんや、薫くんにイラついて怒鳴り付けそうだ。

 

SF、ファンタジーの世界 例えば

アースーシー(アーシュラ・k・ル=グイン 「ゲド戦記」) も、十二国世界(小野不由美十二国記」シリーズ)も、そこでのサバイバルが大変そうだ。

ソラリス(スタニスワフ・レムソラリス」)とか、腸詰め宇宙( 山尾悠子「遠近法」)なんかで暮らせといわれたらどうしよう。不気味さとわけのわからなさに気が狂ってしまいそうだ。言葉で世界を構築する作家というというものに感嘆する。

しかし、気がついてみれば最近、現実が一昔前読んだSF世界になってしまっているようでもある。コロナ、AI、生殖技術 通信技術 …

 

絵本、例えば

ピーターラビットシリーズ(ビアトリクス=ポター)

絵は可愛く、一見のどかな田園風景だがしっかり読むと実は動物と人間たちの厳しい世界だ。「ねこまきだんご」とか、「肉のパイ」なんかにされて食べられるのは嫌だ…。

 

現代日本の小説、例えば…

桐野夏生 東野圭吾 津村記久子 角田光代 三浦しをん 松田青子 ……………

いうまでもなく現代社会の波乱万丈も、こまごました日々のやっかいな出来事も読んでいるぶんには楽しいが…

 

推理小説、外国文学、時代物…

と、考えているといくらでもだらだら続きそうなので本題に。

 

今日の一冊

「家守綺譚」(いえもりきたん) 梨木香歩 新潮文庫

f:id:seminohazuki:20211026074637j:plain

 

時は明治30年前後か。場所は琵琶湖疏水のそば、京都と滋賀の境目、山を越えれば琵琶湖に歩いていける場所、山科のあたりらしい。主人公 綿貫征四郎は、大学卒業後、物書きとして細々と暮らしている。

ボートの事故で琵琶湖でなくなった大学時代の友人、高堂のお父さんから、娘の家近くに隠居するので家に住んでくれといわれ、その家に住むことになる。家守(いえもり)となったわけだ。

すると不思議なことが次々と起こる。庭の百日紅に恋されたり、死んだはずの高堂が掛け軸の絵の中からボートを漕いで現れたりする。狸が近所の和尚さんにばけて説教し、疎水を伝って河童が池の庭に流れてきたり、小鬼を見つけたり、カワウソが人の形をとって雨の中から現れる。

隣の家のおかみさんはそれがなんの不思議もないらしく平然と征四郎に説明してくれる。

 

ー 何ですかこれは

私はちょっと棒の先を揺すって見せた。おかみさんは

ー 河童の脱け殻に決まってます。

と、自信満々で応えた。

ー なぜそんなことまでご存じなのか。

私は訝しく思いつつ訊いた。おかみさんはちょっと哀れむように私を見、

ー 一目見れば分かります。

私には分からなかった。

 

 

サルスベリ 都わすれ ヒツジグサ

 …  紅葉 葛 はぎ

      …サザンカ リュウノヒゲ 

  貝母 山椒 桜 葡萄 

 

これは目次の一部だがこういう四季の植物や、隣人たちや、犬のゴロー、上にかいた河童や鬼とともにともに、疏水のほとりの四季が穏やかに優しくめぐっていく。 

動物も花も木も、霊や土地神のようなものも、今よりもずっと人間に親しかった時代。

それがスッと心にはいってくるのは、明治、大正生まれの祖父母、伯母たちが語ってくれた昔話や伝説を思い出すせいかもしれない。

前世紀、昭和の時代、高度成長期前の田舎には、この本に書かれた世界の名残がほんの少しはあったような気がする。

 

そして、この明治30年頃という時代と、漱石などの明治の小説を思わせる落ち着いたやや古風な文章が違和感なくその世界に入り込ませてくれる。

 

この時代以降、日本は近代化の道をひたすら歩んで行く。日清戦争日露戦争、二つの世界大戦、高度成長、…その都度少しずつ「家守綺譚」に書かれた世界は、切り捨てられ忘れられていった。鉄道やダムができ自然開発が進み、…風景も変わったけれど、人の心も変わっていった。人間以外のものと心を通わすことが当たり前でなくなっていった。

 

続編「冬虫夏草」(とうちゅうかそう) 新潮文庫

には、その予感のようなものも描かれている。

 

f:id:seminohazuki:20211026074851j:plain

 カバーは2冊とも、神坂雪佳の絵 まさにこの本の世界だ

  

 

その時代の現実の生活は、たぶん今よりもずっと厳しいものだったろう

厳しい生活でありながらこういう面もたしかにあった、と、そしてまた、ほんの少し何かを変えれば今でも草木や動物や自然と心を通わすことはできるのではないかと、そんな風にも考える。ファンタジーではあるのだが、ほんの少し前、すぐそこにあった世界なのだと…この本にはそう思わせるものがある。

 

 

作者、梨木香歩の他の小説、エッセイ、どれもいいけれどこの2冊が、特に好きだ。

 

私にとって折に触れ何度も何度も読み返してその世界に浸りたい本。