エデンの北から

京都洛北便り 古典文学で日々を楽しむ

氷と雪の襲(かさね)~ 冬の白

本格的な冬になってきた。

今年の冬は寒さが厳しいという話で、服やら暖房のことやらいろいろと準備しなければ…。コートを数年振りに新調しようかなあ等とおもったりしている。

秋口は茶とか渋い色が素敵に見え、秋が深まると赤などにひかれ冬になると白い色がお洒落というかきれいに見えてくる。ウインドウでは白一色のコーディネイトをよくみかける。若い頃、冬の全身白に憧れていてしてみようとおもったことがあるがこれがなぜかできなかった。一つは結局白という色が贅沢なものであることだろうと思う。うっかりすると寒ざむしいし、汚れも目立つ。汚れた白は惨めだ。あとは…単に似合わなかったのだろう(笑)。

 

本題にはいる。

平安貴族の衣の贅沢はものすごいものだった。食は今の庶民レベルの方が贅沢、住も広さはとにかく快適性では現代の住居の方がいいと思う。でも衣服は、材質、色合い等の資料や再現を見ていると、美的な面でいえば現代人よりもずうっと贅沢でハイレベルと思う。もちろんそれができたのはごくごく一部の人だったわけだが。

 

平安時代の貴族のお洒落は、絹の衣服を重ねる、襲(かさね)の色目だった。(木綿、ウールなどはなかった。庶民は麻等を着た。)季節、場面によって襲にはいろいろと名前がつけられていた。梅、桜、山吹、紅葉 朽葉…しかも、例えば桜がさね一つでも何十種類とあったという。

襲のことを読んでいて、うーんとうなったのは、「雪の襲」「氷の襲」というのがあること。白に白を何枚も重ねる。単に白を重ねるだけでなく、生絹(すずし)、練絹(ねりぎぬ)など材質や、織り方、厚さに変化を持たせていたようだ。

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源氏物語には衣服の記述が多く出てきて、それが登場人物の性格や場面の雰囲気を語るのに効果的に使われているのだけれど、白が似合うのは、まず、「冬の御方」明石の君だ。

「松風」の段で、嵐山 大堰川のほとりに住む明石の君は幼い娘を手放すかどうか悩むのだけれど、次の「薄雲」の段でついに決心する。12月の雪の降る日だ。この時の明石の君がきているのが白い衣服なのだ。

 

雪かきくらし降り積もる朝、来し方行く末のこと残らず思い続けて、例はことに端近なる出てゐなどもせぬを、汀の氷などみやりて、白き衣どものなよよかなるあまた着て、ながめゐたる様体、頭つき、後ろ手など、限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめ、と人々も見る。

(訳)雪が空を真っ暗にして降り積もった翌朝、これまでのことこれからのことを際限もなく考え続けて、いつもはあまり縁側近くに出ていったりもしないのに、今日は汀(みぎわ)の氷などに目をやって、白い衣のやわらかくなったのを何枚も着重ねて、ぼんやりと物思いに沈んでいるありさまや髪型、後ろ姿等は、この上ない高貴な人でもまずこれくらいでいらっしゃるだろう、と女房たちも思っている。

 

雪、氷の冷たさが明石の君の辛い心を暗示していると共に、明石の君の美しさや、高貴な雰囲気を、白い襲が引き立てている、そういう場面だ。

 

白い襲が印象的なのは他には浮舟(うきふね)とおもう。源氏物語最終のヒロインだ。

「浮舟」の巻で、匂宮(におうのみや)は、すでに薫の愛人になっていた浮舟を連れ出し、舟で宇治川をわたって対岸の自分の別邸につれて行く。時は2月、雪の季節。

ここでの浮舟の姿がこのように描かれている。

 

なつかしきほどなる白きかぎりを五つばかり、袖口裾のほどまでなまめかしく、いろいろにあまた重ねたらんよりもをかしう着なしたり。

(訳)ほどよく着なれて柔らかな白い衣を5枚ほど、袖口や裾のあたりまで優美で美しく、さまざまの色をたくさん重ねたのよりも趣深く着こなしている。

 

この後浮舟は 薫と匂宮との間で悩んだ挙げ句、入水をはかり、助けられて最終的には、出家するのだけれど、要所要所で白い衣を着ている姿が描かれる。

白はこの場合彼女のはかなげでどこか非日常的なイメージを醸し出しているように思う。

明石の君と共に白、雪、氷、水、というイメージがついて回るヒロインである。

 

(襲の色などについては、吉岡幸雄「王朝のかさね色事典」(紫紅社)を参考にした。)

 

 

ところで、現実世界に戻って、やっぱりコートは白にしようかなあと思っている。これはとても現実的な理由で、王朝の美学とは関係ない(笑) 黒は好きで、いま持っているのも黒いコートだけれど、明るい色の方が顔色も気分も明るくなるということ、あと、ダウンコートなどは明るい色といっても白以外はなかなか好みのものがないし、数少ない手持ちのものとのコーディネイトをあれこれ考えるのも面倒、結局無難な無彩色で…と…。

紫式部はどの程度のおしゃれを楽しんでいたのだろう、などとも考える。

氷や雪の襲は着たのだろうか。

 

ついでに。冬の白と言えば

食の世界では、冬になると、白いものが美味しくなる。

大根、蕪、白菜、白ネギ、鱈、牡蠣

それに豆腐、うどん、お餅…等で、気がついたら、鍋の材料などが白ばかりということも。

こちらは白に白は簡単にできて、ぬくぬく、ほっこりと暖まれる!。